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1.

1.
春の日は高く、澄みきった青空にさわやかな風が吹く。
トラ・ケルバの町の駅は人の数も少なく、穏やかな午後の時間が流れていた。
若干古臭い外観の客車から、ふらりと大柄な男が降り立ち、大きく伸びをした。
「あー!やあっと降りられたぜ。窮屈で参った参った…と…うわ!?」
出口でひとしきり伸びをしている男を、さらに後ろから降り立った人間が足蹴にした。
「何しやがんだよおまえは!あぶねえだろ!」
「じゃまだ、後ろがつかえている。」
こともなげに言った彼は、後ろで待っていた老婆にさりげなく道を譲った。
「おお、こいつは失礼…。一言そう言やいいだろ月影。けるこたあねえっての…いてて。」
「手っ取り早いからな。…全く、何で『また』お前となんだ。上は何を考えている…。」
 
「超 自然文明管理保安部」、揶揄を込められた通称「魔法省」は、昨今の機械文明の発展に伴い、衰退、消滅していく傾向にある「超自然的な現象を用いた文化、技 能」を保護する名目で作られた組織である。表向きは、少数民族の希少な文化としての信仰や儀式を保存する、といった保護活動が主体の組織だが、その一方 で、衰退してもなお根強く用いられる「呪術」あるいは「旧来の『非科学的な』存在の力を借りた『説明しがたい技術』を操り、社会のいたるところで暗躍する 者たち」の取り締まりや、「反科学技術派の暴動の鎮圧」等、物騒な事柄を扱う役割も担う。
つい100年前までは、いわゆる魔法という技術は生活 に 根付く、とても身近なもので、一部の地方ではそれがそのまま信仰へとつながっていた。それが、急速な科学技術の発展の時代を迎え、社会において魔法技術は 急速にその規模を収縮させていった。その流れ、「LLE」と呼ばれる時代に生まれた歪みを正そうとする組織―「魔法省」とはそういう存在だった。
 
長 身の男、ラルフ・スタッカートは、その魔法省の表方の「調査」と裏方の「鎮圧」の二つの仕事を受け持つ部署に属する役人、通称「保安官」である。役人と いっても、ある程度の規定を踏まえて契約する、半ば傭兵のような存在である。ラルフ自身もこまごまとした事務作業よりも、走り回っている方が性分にあう、 というタイプの男だった。大柄な体躯に浅黒い肌、黒髪、無精ひげに愛嬌のある顔立ちは、いつも幼い少年のように楽しげで、落ち着きがない。
その ラ ルフを蹴って下車したのは月影。ラルフ同様、魔法省公認の保安官である。中背、痩躯。長い黒髪を後ろで束ね、切れ長の目と涼やかな口元の面差しと、スマー トな身のこなしは、魔法省の女性陣に絶大な人気を誇る。(が、本人はあまり気に留めていない)ラルフとは対照的に、落ち着きのある月影は、見慣れぬ長い剣 を腰に下げている。
彼らが組むのは、これで記念すべき連続10回目になる。
 
「しかたねえだろ、グレスフェルト東部の暴動に手間取って人員裂いてたら、結局仕事終えて帰ってきた俺たちしかこのヤマに当たれる人間がいなかった…ってシエルちゃんが言ってたじゃねえか。」
「そうだったな。その事務員のシエルちゃんとやらとお前が話しこんでたおかげで、予定の電車に乗りそびれ、次の便まで2時間待ったんだったな。」
しれっと目もあわせずにちくちくといやみを言う姿でさえ、こんなにも様になるのだから、神様とやらは不公平かもしれん。ラルフはそんなことを思いながら、苦い顔で改札を抜けた。
 
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