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6.

6.
照瀬の北部から広がる森は広大で、付近の住民でもあまり立ち入りたくない場所だという。怪しげな呪術を行っている、というのはやはり単なる噂では ないようで、森にもっとも近い場所に住む一家は、何度も森が光ったりうなったりするところに遭遇している、と諦めたように苦笑いをした。
(「黒鈴、鏡橋、凪平葉…どれも道術に使う薬草になるものばかり。都合の良い場所というわけか。」)
周辺の植物を確認しながら進み、やはり術の類との関連性がありそうだということを確認した月影は、
さて、と道端の薬草から顔を上げた。
「そろそろ何用か伺ってもよろしいか?」
気配が、さっ、と変わった。
夕暮れ過ぎの薄闇の中、それでも彼らは姿を現さない。ただ気配を探っていた月影は、仕方がなくつぶやいた。
「用がないなら去れ。さもなくば無理にでも聞かせてもらう。」
見えるはずもない視界にもかかわらず、月影の目は彼の目をはっきりととらえ、鋭くにらみつけていた。
「…」
ふ、と息が漏れた。
「失礼。美しい女性が物騒な刀を差してこの森を歩いていたことなどないものだから、捕えるべきか迷っていた。」
林から現れた男は、数人の部下を手で制しながら、すきのない身のこなしで月影に近づく。
(「軽装だが、甲冑…そしてあの剣。ラルフ・スタッカートが言っていた連中か?」)
腰につるした剣には、ニルギリの様式が見て取れる。
明るい髪色に青い瞳の男は、進み出ると月影に握手を求めて手を差し出した。
痛 みは見えるものの丁寧に手入れされた防具の下には、屈強な体躯が見て取れる。髪はくせ毛なのか、手入れをしていないのか、そこいらに向けてぼさぼさとはね ており、あごひげも少し伸びすぎている。それにも関らず、男の雰囲気はだらしなさはなく、成熟した品位と覇気があった。
「この近辺の森が物騒だと聞いたんでね。警備をしていた。貴女には失礼になってしまったが、許してほしい。」
「自主的に警備、か?ロストエクイテスが無料奉仕の集団とは聞いていないな。」
またも、男の背後に控えていた部下たちの空気が変わり身構えたが、やはり男が制止する。
「…私は元・ニルギリ国騎士団第3隊隊長、ベオウルフと申す。貴女の名と素性を伺いたい。」
「名は月影。素性は貴公らの返答による。」
「な、何をいうこの」
「伺おう。」
再度部下を止め、ベオウルフは質問を促した。
「貴公らは、鈴里をどうするつもりだ?」
「征伐し、しかるべきところへ突き出す。」
「しかるべきところ、とは?」
「…そうだな。おそらく大陸中央で活動しているという『超自然文明管理保安部』なる組織に渡すことになるだろう。」
「なぜ征伐を?」
「彼らは邪神を呼び出し、この世を滅ぼすつもりだから…と、貴女も聞いたからここにいるのだろう?」
(「目ざといやつ。私の行動をつぶさに監視していたな。」)
月影は元隊長を見ながら逡巡した。
(「しかし、こちらとしては好都合かもしれない。彼らの方が情報を持っている。想定よりも鈴里の規模が大きかった以上、頭数は多い方が良いだろう…」)
「わかっているならば話は早い。私はこういう者だ。」
そういって、彼女はベオウルフに中央政府印章が掘り込まれた、金属製のタグを突き出した。
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