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草稿
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fragment04
時計
かちり、と音が聞こえた気がした。
そこは風が強くて、わずかな音など掻き消えてしまう場所なのに。
大地を暗く陰らせる暗雲でさえ、ここから見れば日の光を浴びて白く輝き、空の底辺を埋めていた。
木々はそろりと色を変え、この風で世界に舞い始めている。
色変わりの木々の下では、彼らの実りを求める獣が駆け回っているのだろう。
崖の上にたって、世界を見つめる少年は目を閉じて、あおられて広がる自分の衣と風の音に耳を澄ませた。
ゆったりとした服は風に乗って、小さな装飾品たちがちらちらと音をたてている。
あと、もう少し。
握り締めた手を開き、そこにある小さな飾り時計を見つめた。針は動いていない。
「西の山は目覚め、針は時を刻みだした。東の谷は、どうかな?」
がり、と硬い音が響いた。その牙は確かに逃げ惑う者を捕らえたが、同胞の口腔から上へ突き出した刃は狼たちを驚かせた。
ずるりと鈍い音を立てて、刃を引き抜くと、その小さな人影は自分を取り囲む狼たちを見て、不敵な笑みを見せた。
高く聳え立つ谷間の住人たちには、今まで見た事のないその異様な少女に飛び掛るべきか否か迷い、じりっと後ずさる者さえ居る。長く伸ばした黒髪は、谷間を吹き抜ける風で怪しく、そして美しく広がった。髪飾りが小さく瞬いた。
上空は暗雲にふさがれ、光など無いような場所なのに、少女の目はまるで日の下に居るかのように光を宿していた。
あと、もうちょっと。
狼たちは取り決めたかのようにいっせいに少女に飛び掛った。少女は剣を構え、笑った。
「準備万端、という事か。」
「さあ、始めよう。時計の螺子は巻き終えた。剣は鋭く研ぎ終わった。長い、長い、追いかけっこだ。」
遠くの町で、教会の鐘が鳴り響く。
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