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2.

2.
鈴里と呼ばれる集落で、怪しげな召還行為が行われている。それは魔法が栄えていた時代ですら禁術とされていたもので、世界に終わりをもたらす…といううわさが魔法省の耳に届いたのは、つい3日ほど前のことだった。
世界中に派遣されている組織の耳は、信憑性の低いご近所のうわさから、他国の軍事機密まであらゆる情報を拾ってくる。そのうわさの発信源が不明かつ、特定の地域でのみ語られている程度の影響範囲、という二つの点を見ても、この情報の信憑性はかなり低い。
そ れでも組織が二人の派遣を指示したのは、「魔法が栄えていた時代ですら禁術とされていた」「終わりをもたらす」ものについて心当たりがあったからである。 ここ数ヶ月で、各地の博物館等で保存されていたある神の遺物と伝えられているものが、ことごとく盗難にあっているのだ。未遂も多く、犯人を捕まえたケース もあったが、彼らは一様に口を閉ざし、ものを言う前に自らに手を下してしまう。
「種をまく者、銀色の終焉、終わりにして始まりの神…たいそうな名前ばっかだな。背中の辺りがむずむずする。」
ラルフが苦笑いをしながら資料を眺める。
「地方によって呼び名が違うだけだ。共通しているのはこの世を終わらせる神…デヘルカ、ティルア…一番一般的な呼び名は、ディエルナ。」
銀の虚ろの神。特に東部に多く見られる神である。
トラ・ケルバから馬車で東南に向かい7時間、ようやく至るのが那霧、鈴里という集落がある自然豊かで広大な地区である。
「いくら科学文明嫌いっても、こりゃ不便じゃねえのかいね?」
電車でつなげば2時間も要らないだろう。馬車など西部では旧文明の遺産に近い。
「知らん。これはこれなりに利点があるから残るのだろう。おそらく。」
野原から一向に変化しない、窓に流れる景色を眺めながら、月影は答えた。
そういえば月影の出身も東部だと聞いたような気がする…。が、どこか虫の居所の悪そうな彼に尋ねるのは面倒だった。
ラルフは馬車酔いから逃れるために、帽子を目深にかぶり、しばし眠ることにした。
どうせ窓の外の景色は、あと3時間は変わらない。
 
那霧の入り口にある都市、照瀬に着いた頃にはすでに日は視線の高さまで落ち、町の通りには飲食店の明かりがぽつりぽつりと灯り始めていた。平屋建ての素朴な木造建築が並ぶ町は、橙色の明かりに照らされ、なかなか情緒ある景観となっている。
「まずは、飯だな!」
馬車から降り、たっぷりと睡眠をとったラルフは元気いっぱいに食事処を探し始めた。
「宿が先だろう。まったく…」
月 影はあきれ返りながら、どこかにいこうとする彼のジャケットをつかんで歩き出した。観光地や観光シーズンではなくとも、この地方の中心都市に程近い照瀬は 比較的貿易が盛んなため、この時間帯に予約もせずに宿泊所を探すのは困難な場合もある。事前にこの地域の情報を調べてきた月影はそのことを把握していた。 そもそもこんな時間に到着する予定ではなかったのだが、今まで響いている2時間の遅れの原因は、そんなこと知る由もない。
「うええ、なんだよ月影、宿探すんなら別に別々でも…」
「お前は何年この仕事をしてるんだ。指定額内なら宿泊費用は組織もち。複数人一括の宿泊申し込みのほうが安いのはどこの地域も共通だ。つまり、お前がいないと私も自腹で払うことになりかねないんだ。わかったか?」
すらすらと説明する月影を、げんなりとした顔でラルフは見やり、しぶしぶ歩き出した。
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