draft
草稿
[26] [25] [24] [23] [22] [21] [20] [19] [18] [17] [16]
14.
一方、月影はベオウルフに誘われ、酒を酌み交わしていた。
村、などというのもおこがましい。大型のテントが立ち並ぶ、ここは宿営地の様相を呈していた。
昔はここに村があったのだよ、と苦笑いをしながら言い訳をするベオウルフ。
ランプの明かりが、簡素なテーブルの上に影を作っている。大型のテントとはいえ、二人分の影がテントの壁いっぱいに映し出された様子は、どうにも窮屈に感じられた。
「サムライ、と言うのだろう?」
「…古い呼び名だ。私も呼ばれた事はないな。」
出された杯を干しながら、月影は刀を眺めた。
ベオウルフの持つロングソードとそれは、あまりにも形状が異なっている。
「しかし、サムライは滅びたと聴いていたよ。」
「滅びたさ。祖父も父も、後生大事に刀だけは捨てなかった。私の剣術も、半分以上自己流にすぎない。」
「…いずれ、騎士という者も、そうなるのだろうな。」
「認めるのか?滅びが避けられない事を。」
月影は意外そうに、あごひげの男を見やる。
彼の顔に一瞬、寂しさが見えたものの、すぐにその影は消えた。
感情的にならない、というのは、いつの時代、どの職業だろうと、生き残る術の一つであり、美学の一つに数えられる。
「時代の流れ、というものに立ち向かい争う事など、我々の本分ではないのだよ。」
「その本分とは何か?」
「護る事、だ。」
弱きを助け、悪しきをくじく。
基本的な行動理念は、そこに集約されると言っても、過言ではない。
「たとえ時代が変わり、その姿かたち、呼び名が必要とされなくなっても、弱い民を守るための力をふるう。これが我々の道というもの。」
「職を失っても、か?」
皮肉を込めたつもりだ。だが、ベオウルフは月影の杯を満たすだけで、いやな顔一つしない。
「仕えるべき人を失ったのは、たしかにつらい事だ。だが、彼だけを守るために、我々はいるわけではない。そう思ってもいいだろう?」
横顔にかかった髪をかき上げ、盃に口をつける。そして、月英は横目で騎士を見た。
「今は、誰を護る?」
「…この、世界を。」
一呼吸置き、しかしよどみなく彼は答えた。
「おこがましいと笑うか?サムライ。」
月影は首をすくめた。ベオウルフは続ける。
「私は、彼らを止めたいのだ。そして彼らに類する古き文明を維持したいと願う者を、守りたいのだよ。」
このまま鈴里の者が「破壊神」の召喚を成功させてしまえば、世界の破壊如何はともかく、「古い文明を維持したいと願う者たちは、危険である」という認識が定着されるだろう。ただでさえ、その類の話題に欠かないこの時代の、決定打となり得る。
顎鬚をなぞり、少し苦い笑いを含みながら、彼はつづけた。
「そういった点で言えば、貴公らの組織と目的は似ているかもしれないな。」
「私は組織から給与を得、生活している身だ。だが、その行為はあなた方に何の得がある?」
「言ったろう?守る事が我々の本分。…たとえ廃れるこの名でも、この信念を変えたくはない。理由を言えというなら、それが我々の正義だから、だろう。」
そういう生き物なのだ。
彼の目はそう語っていた。
「しかし…」
ふと表情を変えて、月影を見やる。机のランプに照らされた顔は鋭く、張りつめているようで、しかし強さとともにわずかな脆さの両方が垣間見えた。そしてその表情は、出会った時からほとんど変わらない。黒髪は光に照らされて色を変え、その眼はわずかに揺らめくランプの光をじっと見つめていた。
「ん?」
「貴女のような女性も、こういった危険な任務に派遣されるとは意外だ。魔法省は人手不足かな?」
おどけたように尋ねる。
「ああ…そういえば気になっていたのだが、よくすぐにわかったな。私が女であることを。」
「冗談だろう。貴女のような美しい女性を、どうして男性と間違えるんだ。」
「私の同僚の男は、いまだに私を男だと思っているぞ。」
「…盲目か何かか?その男。」
ランプを見ながら、ふ、と無意識に月影は笑っていた。
村、などというのもおこがましい。大型のテントが立ち並ぶ、ここは宿営地の様相を呈していた。
昔はここに村があったのだよ、と苦笑いをしながら言い訳をするベオウルフ。
ランプの明かりが、簡素なテーブルの上に影を作っている。大型のテントとはいえ、二人分の影がテントの壁いっぱいに映し出された様子は、どうにも窮屈に感じられた。
「サムライ、と言うのだろう?」
「…古い呼び名だ。私も呼ばれた事はないな。」
出された杯を干しながら、月影は刀を眺めた。
ベオウルフの持つロングソードとそれは、あまりにも形状が異なっている。
「しかし、サムライは滅びたと聴いていたよ。」
「滅びたさ。祖父も父も、後生大事に刀だけは捨てなかった。私の剣術も、半分以上自己流にすぎない。」
「…いずれ、騎士という者も、そうなるのだろうな。」
「認めるのか?滅びが避けられない事を。」
月影は意外そうに、あごひげの男を見やる。
彼の顔に一瞬、寂しさが見えたものの、すぐにその影は消えた。
感情的にならない、というのは、いつの時代、どの職業だろうと、生き残る術の一つであり、美学の一つに数えられる。
「時代の流れ、というものに立ち向かい争う事など、我々の本分ではないのだよ。」
「その本分とは何か?」
「護る事、だ。」
弱きを助け、悪しきをくじく。
基本的な行動理念は、そこに集約されると言っても、過言ではない。
「たとえ時代が変わり、その姿かたち、呼び名が必要とされなくなっても、弱い民を守るための力をふるう。これが我々の道というもの。」
「職を失っても、か?」
皮肉を込めたつもりだ。だが、ベオウルフは月影の杯を満たすだけで、いやな顔一つしない。
「仕えるべき人を失ったのは、たしかにつらい事だ。だが、彼だけを守るために、我々はいるわけではない。そう思ってもいいだろう?」
横顔にかかった髪をかき上げ、盃に口をつける。そして、月英は横目で騎士を見た。
「今は、誰を護る?」
「…この、世界を。」
一呼吸置き、しかしよどみなく彼は答えた。
「おこがましいと笑うか?サムライ。」
月影は首をすくめた。ベオウルフは続ける。
「私は、彼らを止めたいのだ。そして彼らに類する古き文明を維持したいと願う者を、守りたいのだよ。」
このまま鈴里の者が「破壊神」の召喚を成功させてしまえば、世界の破壊如何はともかく、「古い文明を維持したいと願う者たちは、危険である」という認識が定着されるだろう。ただでさえ、その類の話題に欠かないこの時代の、決定打となり得る。
顎鬚をなぞり、少し苦い笑いを含みながら、彼はつづけた。
「そういった点で言えば、貴公らの組織と目的は似ているかもしれないな。」
「私は組織から給与を得、生活している身だ。だが、その行為はあなた方に何の得がある?」
「言ったろう?守る事が我々の本分。…たとえ廃れるこの名でも、この信念を変えたくはない。理由を言えというなら、それが我々の正義だから、だろう。」
そういう生き物なのだ。
彼の目はそう語っていた。
「しかし…」
ふと表情を変えて、月影を見やる。机のランプに照らされた顔は鋭く、張りつめているようで、しかし強さとともにわずかな脆さの両方が垣間見えた。そしてその表情は、出会った時からほとんど変わらない。黒髪は光に照らされて色を変え、その眼はわずかに揺らめくランプの光をじっと見つめていた。
「ん?」
「貴女のような女性も、こういった危険な任務に派遣されるとは意外だ。魔法省は人手不足かな?」
おどけたように尋ねる。
「ああ…そういえば気になっていたのだが、よくすぐにわかったな。私が女であることを。」
「冗談だろう。貴女のような美しい女性を、どうして男性と間違えるんだ。」
「私の同僚の男は、いまだに私を男だと思っているぞ。」
「…盲目か何かか?その男。」
ランプを見ながら、ふ、と無意識に月影は笑っていた。
PR
← fragment01 | HOME | junkword05 →