忍者ブログ

draft

草稿

[30]  [29]  [28]  [27]  [26]  [25]  [24]  [23]  [22]  [21]  [20

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


fragment02

悪い神様

 

村の奥の森には悪い神様がいて、いつも人を呪っている。

だから近づいちゃいけないと、何度も何度も言われていた。

飼っていた鳥が逃げて、ロノが夢中で追いかけ、ようやく気付いた時には、既に来たこともない森の奥まで足を踏み入れていた。暗くて、深くて、怖い。トキのばあさまの声が何度も頭で繰り返された。悪い神様が居るよ。悪い神様のいる森へは行ってはいけないよ。

 

すっかり迷ってしまって、とぼとぼと藪を歩いていると、真っ暗な森に明かりがさしていた。

月明かりだ。水に反射している。湖があったのだろうか。のどがカラカラのロノはおそるおそる近づいていった。

白い光が濃い影を作っている。水は澄んで、水底まで見えるほどだ。村では目にしない魚も泳いでいる。

無心に水をすくって口に運んでいると、聞きなれた羽音とさえずりが聞こえた。

急いで顔を上げると、ずっと探していた鳥がそこにいた。誰かの、指先に止まってじっとこちらを見ていた。

 

誰かの?誰の?

つと目を向けると、その人影もこちらを向いた。

 

悪い神様だ。きっとそうだ。

ロノは身をすくめた。

 

月明かりに照らされて、湖の淵の岩に腰かけたその人は、とても黒い色の服を着ていた。

きっとこの場所じゃなかったら、その姿に気付けないだろう。髪の毛も真っ黒。肌も浅黒い。

そして、真っ赤な目をしていた。泣きはらしたような、目をしていた。

 

ロノはすぐに警戒心を解いた。何しろその人は、本当に泣いていたからだ。

悪い神様は泣かない。きっともっと悪い顔をしている。

その人はロノが思い描いていた悪い神様とは、かけ離れた、あまりに優しい顔をしていた。

 

「あなたは誰?その鳥、私の鳥なんだけど、返してくれる?」

少し震えながら、ロノは遠くのその人に呼びかけた。

ぽかん、とした顔で、その人は少し戸惑っていたが、すぐに立ち上がって、そっちに行く、という身振りをした。

何事も無いかのように、その人は湖の上を歩いていくる。

今度はロノがぽかんとした顔で、その人を見つめた。

「…はい。どうぞ。」

ちょっとかすれた声で、その人はそっと鳥を手渡した。

その人、に気を配りながらも、ロノはほっとして鳥を撫でた。もともとおとなしい子だ。

近所の悪がきが脅かして、家から飛び出してしまっただけなのだ。

安心したようにふくふくと毛を膨らまして、ロノの肩に収まった。

「ありがとう。」

「どういたしまして。…君は、怖くないの?」

「何が?あなたが?」

物おじしない少女に、その人は面食らっている。

「村の人は誰も近寄らないでしょう?」

「悪い神様なの?」

「みんなはそう呼んでるみたい。きっとそうなのかな。」

真っ赤な目を伏せてしまうと、その人は真っ黒で闇夜に紛れてしまいそうだった。

「全然怖くないよ。本当にあなたが悪い神様なの?」

きょとんとするロノに、きょとん、としたその人は返した。

「…わかんない。そんなこと言うの、君が初めてだもの。」

「へんなの。ずっと泣いてたの?目が真っ赤っか。あのねえ、ロウキの花の煎じたのが、目がはれたときに良いって、トキのばーさまが言ってた。」

「…心配してくれるの?」

「だって目がはれると痛いでしょ。ひりひりするでしょ。あと泣くと疲れるでしょ。」

変な子。

そういって、わるいかみさまは笑った。

 

**

 

「こんばんは。ロノ」

「こんばんは。うさぎのかみさま」

あれから何年もたった。ロノはこの人を、うさぎのかみさまと呼ぶことにした。面倒くさいときはうさぎさんと呼んだ。

森の奥へは入っていけない事になっていたから、結局会うのは夜中にこっそりだ。

「こんなとこに来ても、楽しくないんじゃないの?」

「面白いよ。村より星が良く見える。おかげで村じゃ、『居眠り娘』扱いだけどね」

にっと笑って見せる。ロノはとても大きくなった。兎のかみさまはあまり姿は変わらなかったけど、真っ赤に腫れた目は治って、今はやっぱり黒い目がロノを見ている。

「寝る子は育つ、とか言ってさ。寝てないのにねえ。」

背丈がぐんと伸びて、男の子のようないでたちの少女をうさぎのかみさまは笑った。

「寝なきゃダメだよ。体に悪いよ。」

「でも、私が来ないとうさぎさんの目がすぐに腫れるんだもの。とんださびしがりの神様がいたもんだ。」

「ロノが来ると、夜だけど昼の様だなって。ロノが来ないと、昔を思い出してしまう。」

しょんぼりとする神様は、まるで人そのものだ。本当に神様なのか疑わしくなってしまう。

「うさぎさんは悪い神様じゃない。私が保証する。っていうか、こんな悪い事する度胸もなさそうな神様の方が珍しい。」

「…ほめてない…」

ふへ、と笑う神様は、そこら辺のお兄さんと変わらない顔をしていた。

結局彼が悪い神様と呼ばれる存在であることは確かなようだった。でも、別に彼が悪いことをしたわけではない。

彼は、何もできなかった神様だった。

何もできなかったから、次第に心が離れ、信仰が離れ、そんなぞんざいな扱いが原因、と、天災や人災を彼のたたりにされた。気付けば彼はすっかり、悪い神様、という信仰の元、村に根付いてしまっていたのだ。

「みんなも話してみれば、絶対悪い神様ではないってわかるのにね。」

「…どうかなあ。きっと悪い神様だって信じている人には、僕は怪物みたいに見えるんだと思う。ロノは僕と話したから、そう思うし、そう見えるだけかもしれない。」

そもそも神様が見えること自体が異質なのだ。と彼は言う。

絶えてしまった神官の血筋なのか、あまりに薄い信仰心がなす業なのか。

「どうでもいいよ。私にはうさぎさんは全然怖くないし。色々物知りで面白いし。」

ざっくばらんでおおざっぱ。闊達で全身がばねのように力で満ちている。ロノはそんな少女だった。

あまりに僕と違う。

うさぎのかみさまはいつも心の中で、いつまでもこうは居られない、居ちゃいけない、と思っていた。でも。

ただ、憧れて、やまない。大切で、仕方がない。

 

いつか彼女も大人になって、僕のことなど忘れていく。

 

そんなことを考えては、少し泣いた。

PR

fragment03 | HOME | seventhwizard02

-Comment-

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

フリーエリア

最新コメント

[10/09 91]
[09/03 アマカワ]

最新記事

(08/15)
(05/22)
(12/26)
(12/26)
(12/26)

バーコード

ブログ内検索


忍者ブログ [PR]
template by repe