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草稿
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seventhwizard01
0.帰る場所
ハルという何もない国がある。
西の屋根の大陸の中央部に位置し、東西交通の要所として諸処の国境に横たわりながら
その国は資源もなく、巨大な都市も生まれず、ただ茫漠とした草原が広がる
僕はその東寄りの村に住んでいる。
聴けば僕の一族は200年近くここに住んでいるらしい。だからと言って地主のような力や財力があるわけでもなく、そこそこの畑を細々と続けている一般的な農家だ。
そんな僕の家に、不思議な伝統がある。
半年に一度、大きな古い家を掃除に行くのだ。この家というのが、どうも所以が怪しく、僕の一族の所持する物件、というわけではなく、かと言って遺跡のように文化的な意義があって管理しているわけでもない。この伝統は100年ほど続いている、らしい。
僕の家から車で1時間ほどかけていくその場所は、まるで人目を避けるようにひっそりと建っている。町から離れ、雑木林に埋もれたその家は、ひときわ大きな木に飲まれるように作られていた。大木の根元の洞から切り出したようなその家はいつ行っても不思議とカビ臭さはなく、少しツンとした薬品のにおいがした。鍵はとても古い形で、いまどき見ないちゃちな作りだけども、こちらも不思議なことに不逞の輩に暴かれた痕跡もない。
「爺ちゃん、ほんとにこんなとこ守っていかなきゃいけないの?」
僕は曾祖父にいつも尋ねる。齢110を迎える曾祖父は驚くべきことにその年で全く足腰の衰えを見せず、口数は少なくなったものの、痴呆の兆しは見えなかった。
「こんな場所にあって、誰も使えないからきっと人に貸したりはできないけど…」
「いかんよ」
ポツリ、と曾祖父がいう。
「ここは、わしらの物ではない。頼まれて、掃除をしているんだ。」
「100年も帰ってこないのに?いつも聞くけど、それ本当なの?爺ちゃん」
100年も主が帰ってこない預かり物を、いつまで管理しなきゃいけないんだ。僕の子供や孫の代まで、この家はこのままというのだろうか。
「…帰ってくるさ。」
曾祖父は目を細めて、何かを思い出そうとしているようだった。この家の主の姿だろうか。
そんなものが居るのだろうか。ここは単なる廃屋で、曾祖父はとうにボケているんではなかろうか。僕はいつも心配になる。
「お前のひいひいおばあさんがいつも言っていた。『ここしか、あの人にはないのよ』ってな」
僕が12の冬、いつものように曾祖父と(祖父と父は既に亡き人だった)僕がこの家を訪ね埃を払っていると、不意にドアのあく音がした。
「…泥棒?」
今更、と思って恐る恐る顔を上げると、玄関に立っている人物がこちらを見ていた。
「レウ…?」
その人物は僕を見て曾祖父の名を呼んだ。
フードを目深にかぶり、旅行者風のいでたちで大きなカバンを下げたその人物は、泥棒というにはあまりに不用意で、そして何よりひどくあどけない顔をしていた。
短い黒髪に白い肌、どこか異国の雰囲気を漂わせる落ち着いた目の色も、カラスの羽のように黒かった。それでも、どう見ても、その人物の年齢は20前後に見える。
「…だれ?」
がたんっと大きな音がして、曾祖父が箒を倒してこちらを見ている事に気付いた。
「ああ…やっと、お帰りになったんですね。」
酷くかすれた声を出しながら、曾祖父はよろよろとその人物に近寄り、手を握った。
「ずっと、お待ちしていましたよ。リー」
リーと曾祖父に呼ばれた人物は、一瞬眉根を寄せて辛そうな顔をしたが、すぐに優しく笑い、曾祖父の手をそっと握り返した。
「…ただいま、レウ。長い事、本当に長い事、世話になってしまったね」
100年帰ってこなかった主の名は、リーシィトといった。
長い長い孤独を生きる、最後の『魔法使い』との出会いだった。
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