draft
草稿
[10] [9] [8] [7] [6] [5] [4] [3] [2] [1]
4.
4.
意識が朦朧とする。手足がうまく動かない。細い路地の壁に手をつき、一歩一歩ふらつく足取りで進む。
時折通りすがる人は、ちらりと一瞥するだけで、まるで見なかった事にして顔を背け、通り過ぎていく。
もう限界…。
そう感じた時、ちょうど壁が途切れ、大通りに体を投げ出す形で倒れこんでしまう。しかし、幸いにも彼女は意外と柔らかな感触に遮られ、硬い地面にぶつかる事は無かった。
「おっとと…おい、大丈夫かい、あんた?」
視界にひょこっと現れた男は、心配そうにこちらを見ている。
「おい、どうしたラルフ。」
横からも声がする。彼女はその声の主を確認する間もなく、意識を手放した。
その日の午後、ラルフはテーブルに肘をつき、例の突然倒れてきた少女を目の前に苦笑いをしていた。
「まったく、若い娘さんが空腹で倒れるなんてな。都ではめったにお目にかかれないぜ?」
少女は必死に食事をかきこんでいた手をはたととめ、顔を赤くしながら小さくなる。
背中まで伸ばした鈍色の髪、陶器の様な白い肌、どこか遠くを見るような翡翠の瞳、と、
なかなかの美人かつ可愛らしい顔を耳まで赤くしながら、少女は小さな声で返事をする。
「すみません…食事まで…あの、お金は…」
しどろもどろになる彼女に、月影は静かに首を振った。
「この大飯食らいのダイエットになるだけだ。気にしなくて良い。食べなさい。」
「…おれの食費か!?」
頬杖から顔をあげてあわてたラルフも、すみません、を連呼する少女の前では月影の台詞を自身で繰り返すしかなかった。泣き出しそうになる腹の虫を抑えながら、ラルフは彼女に尋ねた。
「で、お嬢さん、照瀬の人かい?家まで送ろうか。」
ちらり、と月影が一瞬にらんだように感じたが、あくまで少女の体調を気遣っての事であって、やましい事など断じてない。なぜか頭の中で勝手に言い訳をしてしまったラルフは、月影はちょっと人に対して厳しすぎるんじゃねえか、と内心ため息をついた。
「いえ、その…。」
「旅行客?なら宿はどこだい。」
「その…よくわからなく…て…。」
「…?どういう事だ?」
月影も加わり、少女は更に泣きそうな顔になり、小さくなった。
「あの…何も思い出せなく…て…私、何処から来て、どうしてここにいるんでしょうか…」
「…おいおい、マジかよ…。参ったな、記憶喪失…かあ?」
「…名前は分かるか?自分の名前だ。」
町の役所に問い合わせれば、探している人間が居るかもしれない。しかし、少女はやはりはっきりとは思い出せない様子だった。しばらくうんうんうなりながら、やっとぽつりとつぶやいた。
「ええと…な……な…?…ご、ごめんなさい…よく分からない…です…。」
「なな?ここらじゃ一般的な名前だな…探せるかどうか…。」
月影の不安どおり、なな、という名前だけでは何処の誰かは分からず、その名前の人間を探している報告も無かった。
意識が朦朧とする。手足がうまく動かない。細い路地の壁に手をつき、一歩一歩ふらつく足取りで進む。
時折通りすがる人は、ちらりと一瞥するだけで、まるで見なかった事にして顔を背け、通り過ぎていく。
もう限界…。
そう感じた時、ちょうど壁が途切れ、大通りに体を投げ出す形で倒れこんでしまう。しかし、幸いにも彼女は意外と柔らかな感触に遮られ、硬い地面にぶつかる事は無かった。
「おっとと…おい、大丈夫かい、あんた?」
視界にひょこっと現れた男は、心配そうにこちらを見ている。
「おい、どうしたラルフ。」
横からも声がする。彼女はその声の主を確認する間もなく、意識を手放した。
その日の午後、ラルフはテーブルに肘をつき、例の突然倒れてきた少女を目の前に苦笑いをしていた。
「まったく、若い娘さんが空腹で倒れるなんてな。都ではめったにお目にかかれないぜ?」
少女は必死に食事をかきこんでいた手をはたととめ、顔を赤くしながら小さくなる。
背中まで伸ばした鈍色の髪、陶器の様な白い肌、どこか遠くを見るような翡翠の瞳、と、
なかなかの美人かつ可愛らしい顔を耳まで赤くしながら、少女は小さな声で返事をする。
「すみません…食事まで…あの、お金は…」
しどろもどろになる彼女に、月影は静かに首を振った。
「この大飯食らいのダイエットになるだけだ。気にしなくて良い。食べなさい。」
「…おれの食費か!?」
頬杖から顔をあげてあわてたラルフも、すみません、を連呼する少女の前では月影の台詞を自身で繰り返すしかなかった。泣き出しそうになる腹の虫を抑えながら、ラルフは彼女に尋ねた。
「で、お嬢さん、照瀬の人かい?家まで送ろうか。」
ちらり、と月影が一瞬にらんだように感じたが、あくまで少女の体調を気遣っての事であって、やましい事など断じてない。なぜか頭の中で勝手に言い訳をしてしまったラルフは、月影はちょっと人に対して厳しすぎるんじゃねえか、と内心ため息をついた。
「いえ、その…。」
「旅行客?なら宿はどこだい。」
「その…よくわからなく…て…。」
「…?どういう事だ?」
月影も加わり、少女は更に泣きそうな顔になり、小さくなった。
「あの…何も思い出せなく…て…私、何処から来て、どうしてここにいるんでしょうか…」
「…おいおい、マジかよ…。参ったな、記憶喪失…かあ?」
「…名前は分かるか?自分の名前だ。」
町の役所に問い合わせれば、探している人間が居るかもしれない。しかし、少女はやはりはっきりとは思い出せない様子だった。しばらくうんうんうなりながら、やっとぽつりとつぶやいた。
「ええと…な……な…?…ご、ごめんなさい…よく分からない…です…。」
「なな?ここらじゃ一般的な名前だな…探せるかどうか…。」
月影の不安どおり、なな、という名前だけでは何処の誰かは分からず、その名前の人間を探している報告も無かった。
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