draft
草稿
[18] [17] [16] [15] [14] [13] [12] [11] [10] [9] [8]
12.
12.
木々の間から、フクロウの声が聞こえる。水路際からは、虫の音が響き始めている。鈴里の里に、夕闇が迫っていた。
ぼんやりと窓の外を眺めながら、ラルフは今後の動きについて考えを巡らせていた。
「とらえた朝霧の者から聴きだした情報によれば、召喚自体は行われたものの失敗に終わり、彼らの目的はいまだに果たせてはいないようです。ただし、召喚されたもの、は確かにこの世に顕現しているはずだとか。われらも総出で探し回っておりますが、姿かたちを知らぬままでは探しようもなく…」
露玄の話にウソはない。自らが使役するもの、例えば先刻呼び出した白蛇の様な者たちに問うても、たしかに「ここ数日の間に、大きな気の流れが外界へ向けて動いていた気配がした」という証言は得ていた。ただ、正体を知るものが一人もいなかった事が気にかかる。悠久の時を生きる彼らが、古の神を把握していない、というのはおかしな話である。
「銀虚神さんってぇのは、一体何なんだろうねぇ…」
ひとりごちたのち、ひとまず魔法省に連絡でもするか、と報告書に手を伸ばした時、こんこん、と控えめなノックが聞こえた。
「ナナ?どうかしたのか?」
「月影さんに、あった」
しょんぼりした顔で、ナナは月影から預かった手紙を、ラルフに手渡した。
「そっか、あいつもここに来てんのか。」
「ううん、外で野宿するって…ここの人たち信用ならないからって…」
それを聴いたラルフが笑ったのを見て、ナナはキョトンとする。
「いやいや、あいつらしいわぁ。気にすんなよ、ナナ。月影は単なる石頭だからな」
手紙に目を通したラルフは、おおむね露玄の話と似たような報告内容、ロストエクイテスと一緒にいる事、すぐにでもそこを離れ、自分と合流する事、といった内容に、唸った。
「どうしたの?」
「あいつの書く手紙ってぇのは、どうしてこうも小難しい表現ばっかりなんだろうなぁって…それにしても月影の野郎、ここを襲撃するつもりかい。あったく、見かけによらず血の気の多い野郎だよ。」
苦笑いで頭をかく。どうしたもんかね…とつぶやいて、とりあえず手紙を燃やした。集落の人間の目に触れたら、間違いなく疑いの目を持たれるであろうことが容易に想像できた為だ。ナナもいるし、不要な確執は避けたい。
「お仕事、邪魔?」
ナナがおずおずとラルフの顔を覗き込む。
「うんにゃ。まだ時間はあるしな。」
満月がやってくるのは5日後、月影の手紙の書きようからして、ロストエクイテスの襲撃もまだ猶予がある。どうにか双方刀を収め、ついでに召喚された神様も何もせずにお帰り願ううまい案はないものか、と、煙草に火をつけた。
「そんな神様、なんでいるのかな?」
ナナがポツリとつぶやいた。
「ディエルナの事か?…そうさなあ…この世を破壊する神様、か。」
ディエルナの伝承が、文献や史料に登場するのは、現在確認出来た限りでは精霊記と魔法文明の黎明期との中間あたり、300年前頃である。ただし、この東部の言語が文書として記録に残るようになったのもその少し前ごろからなので、以前から口伝には登場していたものと推測されている。一様に美しい女神の姿をしている。そして、その手でいくつもの文明を零に戻してきた事がほのめかされる。不思議な事に、その神は一度世界を破壊し、そして再び文明が栄える礎を作るところまでが使命であるという。つまり、創世神の側面も持ち合わせているのである。研究者の間では、創世の神の破壊的な面のみ、現実世界でいえば天災による被害を司る神として、強調された存在なのではないか、というのが有力である。
「俺にもわかんねえなあ…」
人の文明が発展すればするほど、この世は自然な姿を失い、長い時をかけて形づくられた「発生」「発展」「衰退」「消滅」の生命の循環は失われていく。神や精霊といった存在が、抑止力としてそのような存在を作ったとしても違和感はない。
ただその存在は、どこか歪であるような気がしてならなかった。
なぜ人の願いでそのような神を召喚できる?その存在は人が触れられない領域にあってこそ、その役割を全うできるはずだ。ラルフが使役するもの達が名前も知らない事も気にかかる。
全く面倒な物を呼び出してくれたもんだ、とラルフはため息をついた。
木々の間から、フクロウの声が聞こえる。水路際からは、虫の音が響き始めている。鈴里の里に、夕闇が迫っていた。
ぼんやりと窓の外を眺めながら、ラルフは今後の動きについて考えを巡らせていた。
「とらえた朝霧の者から聴きだした情報によれば、召喚自体は行われたものの失敗に終わり、彼らの目的はいまだに果たせてはいないようです。ただし、召喚されたもの、は確かにこの世に顕現しているはずだとか。われらも総出で探し回っておりますが、姿かたちを知らぬままでは探しようもなく…」
露玄の話にウソはない。自らが使役するもの、例えば先刻呼び出した白蛇の様な者たちに問うても、たしかに「ここ数日の間に、大きな気の流れが外界へ向けて動いていた気配がした」という証言は得ていた。ただ、正体を知るものが一人もいなかった事が気にかかる。悠久の時を生きる彼らが、古の神を把握していない、というのはおかしな話である。
「銀虚神さんってぇのは、一体何なんだろうねぇ…」
ひとりごちたのち、ひとまず魔法省に連絡でもするか、と報告書に手を伸ばした時、こんこん、と控えめなノックが聞こえた。
「ナナ?どうかしたのか?」
「月影さんに、あった」
しょんぼりした顔で、ナナは月影から預かった手紙を、ラルフに手渡した。
「そっか、あいつもここに来てんのか。」
「ううん、外で野宿するって…ここの人たち信用ならないからって…」
それを聴いたラルフが笑ったのを見て、ナナはキョトンとする。
「いやいや、あいつらしいわぁ。気にすんなよ、ナナ。月影は単なる石頭だからな」
手紙に目を通したラルフは、おおむね露玄の話と似たような報告内容、ロストエクイテスと一緒にいる事、すぐにでもそこを離れ、自分と合流する事、といった内容に、唸った。
「どうしたの?」
「あいつの書く手紙ってぇのは、どうしてこうも小難しい表現ばっかりなんだろうなぁって…それにしても月影の野郎、ここを襲撃するつもりかい。あったく、見かけによらず血の気の多い野郎だよ。」
苦笑いで頭をかく。どうしたもんかね…とつぶやいて、とりあえず手紙を燃やした。集落の人間の目に触れたら、間違いなく疑いの目を持たれるであろうことが容易に想像できた為だ。ナナもいるし、不要な確執は避けたい。
「お仕事、邪魔?」
ナナがおずおずとラルフの顔を覗き込む。
「うんにゃ。まだ時間はあるしな。」
満月がやってくるのは5日後、月影の手紙の書きようからして、ロストエクイテスの襲撃もまだ猶予がある。どうにか双方刀を収め、ついでに召喚された神様も何もせずにお帰り願ううまい案はないものか、と、煙草に火をつけた。
「そんな神様、なんでいるのかな?」
ナナがポツリとつぶやいた。
「ディエルナの事か?…そうさなあ…この世を破壊する神様、か。」
ディエルナの伝承が、文献や史料に登場するのは、現在確認出来た限りでは精霊記と魔法文明の黎明期との中間あたり、300年前頃である。ただし、この東部の言語が文書として記録に残るようになったのもその少し前ごろからなので、以前から口伝には登場していたものと推測されている。一様に美しい女神の姿をしている。そして、その手でいくつもの文明を零に戻してきた事がほのめかされる。不思議な事に、その神は一度世界を破壊し、そして再び文明が栄える礎を作るところまでが使命であるという。つまり、創世神の側面も持ち合わせているのである。研究者の間では、創世の神の破壊的な面のみ、現実世界でいえば天災による被害を司る神として、強調された存在なのではないか、というのが有力である。
「俺にもわかんねえなあ…」
人の文明が発展すればするほど、この世は自然な姿を失い、長い時をかけて形づくられた「発生」「発展」「衰退」「消滅」の生命の循環は失われていく。神や精霊といった存在が、抑止力としてそのような存在を作ったとしても違和感はない。
ただその存在は、どこか歪であるような気がしてならなかった。
なぜ人の願いでそのような神を召喚できる?その存在は人が触れられない領域にあってこそ、その役割を全うできるはずだ。ラルフが使役するもの達が名前も知らない事も気にかかる。
全く面倒な物を呼び出してくれたもんだ、とラルフはため息をついた。
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