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13.

ラルフがため息をつくその横で、ナナは枝の間から覗く月を見ていた。
酷く強い光が、里の路地に木陰を作り出している。
鈴里の夜は深く、音は全て木々に吸い取られているようだった。
時折、水路を魚が跳ねる音が、路地裏からかすかに聞こえる気がする。
(「ここは、昼も夜の様に暗いし、夜も昼の様に明るい」)
記憶はまだ、全く明瞭にならなかった。思い出せる事はほんの少し。
ラルフが笑った時に見える白い八重歯。月影が振り返る時のしぐさ。なんだかちょっとだけ、胸の内がほっこりするような気がした、二人の口論の様子。照瀬の町のにぎやかさ。日の光。鈴里の素朴で涼やかな景観。そして、大きな月。
「わり、ちょっと一服。」
ラルフは考え事をあきらめたらしく、窓に一緒に寄りかかり、ナナに煙が流れないような位置に座りこむ。
のんびり煙をくゆらせているラルフに、ナナは、消え入りそうな小さな声で言った。
「さようならは、つらいね」
「…?」
怪訝な顔のラルフを気にせず、ナナは続ける。
「ラルフも、月影も、一緒にいると楽しいよ。」
「なんでい、突然。」
苦笑いをしながら、ぼりぼりと困ったように頭をかく。
「さようならは、つらいね」
ラルフが、また同じことを言うナナを振り返ると、彼女は窓の外のどこか遠くを見ていた。
「さようならじゃなくて、またね、にすりゃあいいだろ?」
「またね?」
「そう、またね。」
に、と笑うラルフにつられて、ナナも笑った。
「またね、かぁ…」
その笑顔が妙にさびしそうで、思わずラルフはナナの頭をわしわしとなでた。
「生きてりゃあ、何度だって、どんな機会だってあるさ。人はそーいう可能性ってやつを持ってる生き物なんだとよ。すげえよなあ。」
まあ、爺さんの受け売りだけどな、とナナに向かって片目をつぶって、おどけて見せる。
「間違ってても?」
明るい窓を背にして、濃い影になったナナは、不安そうに尋ねる。
「ああ、俺なんて間違ってばっか。いつだってジジイや月影に怒鳴られてばっかで、もうげんなり。」
「じゃあ、私が間違ったら、ラルフが止めてね?怒ってね?」
しゃあねえなあ、とまたナナの頭をなでる。
「一丁、びしぃっと怒ってやるから、覚悟しとけ。」
嬉しそうに、ナナが頷いた。
 
(「…怒る、か。どういう性質なのかは知らんが、要は、奢るな、壊されたくなかったら自分で反省しろって、そう叱りつける神様なんだろうなあ、ディエルナさんはよ」)
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